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「京都の伝統行事・芸能後継者育成のためのクラウドファンディング」助成結果のご報告

京都の町では、季節を彩る祭や五山送り火、六斎念仏、狂言、また山村では松上げや火祭など、個性豊かな伝統行事・芸能が地域の方々を中心に守られ、現代まで受け継がれてきました。しかし、近年の少子高齢化、文化継承の意識の変化、地域の過疎化などから、次世代への継承が難しく、規模縮小、やむを得ず中止となる行事もあるのが現状です。そこで2024年8月から11月にかけて、後継者育成を行う保存会等への助成と広く皆さまに関心を寄せていただける機会にしたいと、クラウドファンディングを実施しました。

多くの皆さまから暖かいご支援を頂き、13団体の活動に助成をおこないました。以下に全13団体の助成内容と、その中から一部の例(千本ゑんま堂大念佛狂言保存会、藤森神社駈馬保存会、小山郷六斎念仏保存会)をご紹介いたします。

令和6年度次世代承継事業 助成対象事業一覧(五十音順)

団体名 助成対象事業
今宮やすらい会 やすらい花に参加する子どもたちのための衣装・備品代にあてる
桂六斎念仏保存会 子どもたちの衣装、鼓を習うための講師経費にあてる
賀茂競馬保存会 賀茂競馬に奉仕する乗尻や警固衆の子ども用の草履を製作する
京都子ども六斎教室連絡会 市内6つの六斎教室が合同で開催する、こども六斎教室成果発表会費用にあてる
烏相撲保存会 近隣の小学生向けの関心を集め、参加を促すため、行事に関するパンフレットを作成する
鞍馬火祭保存会 地域住民や観光客に伝統行事の奥深さを伝えるため、祭の準備段階から取材・撮影した鞍馬の火祭写真集を作成する
小山郷六斎念仏保存会 使用できない状態であった獅子頭を修繕し、若年の会員が使用できるようにする
嵯峨狂言クラブ 嵯峨狂言の普及と次世代の育成のため、嵯峨狂言クラブ35周年記念誌を作成し、地域にも配布する
千本ゑんま堂大念佛狂言保存会 軽く持ちやすい子ども用の刀と大盃を新調し、子どもたちの演技に役立てる
西之京瑞饋神輿保存会 子ども神輿提灯が破損し、傷みが激しいため子どもたちが安心して参加できるように修理する
広河原松上げ保存会 麻縄のしめ方技術を若手に継承するため、講習会を開催する
藤森神社駈馬保存会 地域の方や子どもたちを対象に、乗馬、鞍の装着等の講習及び体験会を開催する
(公財)松ヶ崎立正会(松ヶ崎題目踊及びさし踊、妙法送り火点火) 題目踊及びさし踊の盛装用備品や、妙法送り火点火における鉢巻、半纏代にあてるほか、伝統行事を学習するための学識者による講演会を開催する

千本ゑんま堂大念佛狂言保存会

千本ゑんま堂大念佛狂言(以下ゑんま堂狂言)は、寛仁年間(1017~1020)に上京区の引接寺(千本えんま堂)開祖の定覚上人が創始したと伝えられており、鎌倉時代に如輪上人が再興したと伝わる大念仏狂言です。ゑんま堂狂言は「嵯峨大念佛狂言」「壬生大念佛狂言」とともに京都の三大念仏狂言と呼ばれ親しまれてきました。この中でゑんま堂狂言はセリフがあることが特徴で、小さな子どもから大人まで笑顔で楽しまれています。

今回のクラウドファンディングよる助成では、ゑんま堂狂言に必要な刀と大盃を新調されました。演目によっては小さな子どもも刀をもって演じますが、これまで長く使用してきた刀は重く、子どもには扱いが難しいものであったため、子どもも大人も演じやすい刀を6本新調し、加えて大盃を1つ新調されました。

今回平日の夜に取材にお伺いしましたが、小学生の子どもたちから大人の方々まで熱心に稽古に励んでおられました。軽くなった刀を手に持ち、軽やかに刀裁きのシーンが演じられました。保存会の皆さんは、毎年ゑんま堂で節分と5月におこなわれる公演に加え、1年間を通して精力的に活動されています。

藤森神社駈馬保存会

5月5日に藤森神社の境内参道で藤森祭の一環としておこなわれる駈馬神事。単なる早馬(はやうま)ではなく、江戸時代に流行した曲芸的な馬術である曲馬(きょくば)の影響を受けたものとされています。走る馬の上で墨と筆を用いて字を書く「一字書き」をはじめ、さまざまな乗馬のわざを伴う点に特徴があります。

藤森神社駈馬は単なる早馬ではなく、実践の場での騎馬術であり足をあぶみから離すため危険が伴うものです。また、一般的な洋鞍とは異なり装着が難しい和鞍が用いられていることもあり、年に数回実際に神社に馬をよんで練習をおこない、そして厩舎におもむいての練習をしています。加えて、神社にて模型を用いた和鞍装着の練習を1年を通しておこなっておられます。
現在保存会には中学生から80代までが所属し、それぞれが乗子(のりこ/実際に馬に乗り駈馬のわざを披露する)と衣装などを担当する世話方の役割を担っておられます。

今回のクラウドファンディングによる助成では、駈馬神事について知ってもらい後継者育成をはかることを目的に、地域の方や子どもたちを対象とした、乗馬や鞍の装着等の講習及び体験会が開催されました。
保存会の北尾会長にお話を伺ったところ、今後実際に神事の際に動くことができる人が足りなくなることを危惧されていました。今回のような体験事業は初めての試みではあるが、今後も継続して、駈馬神事の魅力と継承の大切さを知っていただく機会になればと今後への意欲を語ってくださいました。

 

小山郷六斎念仏保存会

六斎とは、もともと毎月計6日の斎日(けがれをさけて慎む日)のことで、この日は、悪鬼が人々に災いをもたらす日だといわれていました。この六斎の日に、念仏を唱え、鉦や太鼓などで囃したのが六斎念仏の始まりといわれています。
京都の六斎念仏は、京都市内の15地区で伝承され、各保存会では、お盆に地域の家を回る「棚経(たなぎょう)」や、お寺で全ての演目を披露する「一山打ち(いっさんうち)」などを行っておられます。

都の近郊農村であった小山郷では、農村の人々がお盆の時期などに村中のみならず洛中にも赴き念仏を唱えてきました。現在も、毎年お盆の時期の盂蘭盆会供養として演じられており、年間を通して練習に取り組むほか、初心者や子どもたちの育成や獅子の練習を別途行っておられます。
今回のクラウドファンディングによる助成では、演目の中でもアクロバティックな動きで観ている人を魅了する獅子の頭「獅子頭」が修繕されました。現在衣装、道具の軽易な修理は保存会会員で行っておられますが、永らく使用できない状態だった獅子頭を若手会員が使用できるよう修理に出し、使用できる状態となりました。